- 作者:碧海 寿広
- 発売日: 2018/07/18
- メディア: 新書
なぜ読もうと思ったか
森美術館のSTARS展で見た宮島達男の作品が大変興味深かったので、SCAI THE BATHHOUSEや千葉市美術館等にも観に行ったのだが、どうやら仏教に造詣が深くないと作品の根底にあるコンセプトが理解できない様子。教養として勉強してみることにするか…と思い立ったのは自分ではなく奥さんで、読み終わった奥さんに勧められて読むことにした。
あと奈良出身なので古美術について勉強したほうが良いかなと何となく思ってはいた。のでちょうど良かった。
どのような本か
奈良や鎌倉で大仏を見たことがある人は多いと思うが、仏教への信仰が主目的だった人はほとんどいないだろう。多くの人は仏像を古美術として見ている。仏像には「宗教」と「美術」という2つの側面があり、古美術鑑賞として仏像を楽しむ文化が生まれたのは明治時代のことらしい。 明治から平成まで、仏像を取り巻く環境と思想がどう変化していったのかを考察したのがこの本である。各時代において重要な役割を果たした人物に焦点を当て、仏像と日本人の関係性の変遷を時系列順にまとめている。
書評というか感想
いや、仏像ですよ。仏像と日本人の関係性ですよ。こんなテーマ生まれてこの方考えたこともなかった。
もう知らない単語、知らない概念のオンパレードという感じでたまりません。自分がド素人な分野だとこんなにも読むのが大変なのかという久しい感覚。幸いなことに既読の妻が側にいたので気になったことなどについてちょくちょく会話できたのは良かった。これにより理解が深まったり記憶が定着したりという効果があるように思う。ペア読書とか聞いたことあるけど良いのかもしれない。
明治初期に廃仏毀釈といって仏教寺院や仏像をぶっ壊しまくり仏教を滅ぼそうという動きがあったらしい。もうそこから知らなくて自分の教養のなさがただただ悲しいのだけれども、逆に言うと伸びしろがすごいということなのでプラスに考えたい。スポンジのように吸収してやろう。
で廃仏毀釈です。仏像も全て破棄されそうな風潮のなか、美術という概念が日本国内でも広がり始め、あれっ、仏像ってなんか美術的価値ありそうじゃない?万博とかに出せるんじゃない?ちょっと調査してみる?てな感じで奈良や京都の寺院を巡って調査開始、そこから少しずつ古美術としての仏像の価値が認知され始める…というのが大雑把なストーリー。
博物館ができたり、美術雑誌ができて仏像写真が乗ったり、古寺を訪れるのが教養人の中でブームになったり…明治、大正、昭和の間に様々な出来事があって今の寺院や仏像に対する価値観が醸成されていったという。まっっったく知らなかった…。確かに観光でお寺にいくというのはよくあることだけど、それが古美術鑑賞を目的としていることに自覚的でなかったなあ。色々と納得できる部分が多く面白いです。
随所に出てくるストーリーも興味深い。廃仏毀釈で職を失いそうになった僧侶達が神官にジョブチェンジして神社に集団転職した話とか、救世観音は秘仏だったのを美術調査で無理やりこじ開けたところ「雷が落ちるぞ!!」と言って僧侶たちが逃げ出した話(もちろん雷は落ちなかった)とか、工藤利三郎が写真撮った仏像は国宝に認定されるという都市伝説が流れたとか。仏像の話ってこんなに面白いの?
仏像を美術として楽しむ文化を形成するのに大きな役割を果たした人たちの名前が知れたのも良かった。初めて仏像を日本美術として調査したアーネスト・フェノロサと岡倉天心。仏像写真を調査資料としてだけでなく美術として撮った小川一真。「古寺巡礼」を書いた和辻哲郎。昭和の最も著名な仏像写真家である土門拳と入江泰吉などなど。他の本や雑誌を見てると結構名前が出てくるのでちょっと知識が広がった感があって良い。
とにかく全体的に興味深い本でした。明治から現代にかけての「流れ」が理解できるので、周辺知識を仕入れる際の礎になってくれそうな気がします。個々の寺院や仏像についての解説はほとんどないので、そういうのはまた別の本を読むなり現地に見に行くなりしてもう少し勉強してみようと思います。仏像、奥が深い…。
あとみうらじゅんといとうせいこうによる「見仏記」が本書の中で絶賛されていたので、こちらも読んでみたいところ。
僕みたいな仏像に関してなーんにも知らないド素人が入門するにはとても良い本だと思いますし、逆に仏像は好きだけど江戸明治から始まる仏像をめぐるストーリーについて考えたことがない人(ほとんど誰も考えたことないと思うけど)にもすごく面白い本だと思います。オススメです。